Interview

いろいろな角度でまち・団地を”語る”専門家のお話。新たな一面が発見できるはず。

専門家が語る まち・団地への想い

Photo : Ai Hirano

長町志穂さん(照明デザイナー)

~照明計画で夜時間を豊かに~

奈良学園前・鶴舞団地では平成 18 年 3 月から団地再生事業を実施。団地をⅠ~ Ⅲ期に分け、建替えを進めて参りました。平成 22 年 3 月に第Ⅰ期(西町)、平成 26 年 10 月に第Ⅱ期先工区(東町)が完成。そしてこのたび、第Ⅲ期(東町)が完成いたしました。今回は、Ⅱ期・Ⅲ期にて照明計画を担当されていた長町さんにお話を伺いました。

長町志穂さん(ながまち・しほ)
照明デザイナー 株式会社 LEM 空間工房代表取締役。京都工芸繊維大学卒業。京都造形芸術大学客員教授、大阪大学・京都工芸繊維大学非常勤講師。グッドデザイン賞 110 点、北米照明学会 ”Award of Merit 賞”等受賞多数。実績「フラワーロード、メリケンパーク照明改修(神戸市)」「堂島大橋(大阪市)」「御堂筋イルミネーション(大阪市)」「水木しげるロード(境港市)」等。

取材場所:奈良学園前・鶴舞団地(Ⅱ・Ⅲ期エリア)

 

~奈良学園前・鶴舞団地(Ⅱ・Ⅲ期)照明デザインの背景~
鶴舞の照明デザインに携わった経緯

長町:鶴舞Ⅱ期の実施設計を遠藤剛生建築設計事務所の遠藤氏が設計することとなり、チームの一員として参加することになったのがきっかけです。
遠藤剛生氏とは、私が独立する以前、当時は松下電工に在職していましたがそのころにデザインチームの先生として「集住とは何か」を教えていただいていました。「場所性」「独自性」など現在の私の照明設計で重要な考え方を先生から学びました。遠藤先生の設計された多くのUR集合住宅を拝見してきましたし、独立後は多くのURプロジェクトをご一緒させていただいています。また同じ頃、現在は関西大学環境都市工学部の教授である江川直樹氏ともお知り合いになり、都市環境デザイン会議という団体にお誘い頂きたくさんお話しする機会を得ることができ、強く影響を受けました。「場所の声を聴く」は今では私のテーマでもあります。お二人とも多くのURの集合住宅を設計されており、URの案件で実験的な設計や住まい方を長年にわたり追求・提案されてこられたお話を随分お聞きしていたので、URの集合住宅づくりに以前から興味を持っておりました。
照明デザインの分野で、現在のURの素晴らしいところは、仕様書の中に「照明計画」がきちんと書かれていることです。照明計画の必要性についてほとんどの案件で担当者が理解されています。海外ではあたりまえなのですが、日本ではあまり取り入れておらず、まさに国際標準です。

 

鶴舞の照明デザインのイメージ

長町:ここ鶴舞団地は、住み慣れたところから移ってくる住民の方が多いので「本当にこの団地に来て良かった」と思っていただくことをめざしました。近年、寿命が長くメンテナンスの手間がほとんどないLEDが登場したことで、電気代のコストを下げながら様々な照明デザインが可能になりました。従来は、水銀灯などのポール照明しかなかった「団地のあかり」にも「小壁の間接照明」や「樹木のライトアップ」などが出来るようになったのです。昼には緑陰をつくる樹木ですが、ライトアップしなければ夜には暗がりをつくってしまいます。豊かな樹木計画のある鶴舞団地ならではの、夜にも緑を感じ安心感のある環境をめざしました。また、他の団地にはない遊び心を取り入れようと思いました。例えば、ライン状の光を地面に埋め込んだり(写真参照)、花びらや鳥などの形に照らされる照明を採用したり、日常の夜景の中に少し楽しくなる要素を取り入れています。こういったあかりは、光源や照明器具の進化によって可能となった今日的なあかりです。


ライン照明


影絵

 

~奈良学園前・鶴舞団地(Ⅱ・Ⅲ期)の照明コンセプト~

長町:ルールはたった二つ。一つは「温かい電球色での色温度」です。住環境なので、温かい印象を与える「電球」の色温度(3000から 2700 ケルビン※)に設定しています。※自然光などの朝日や夕日の色温度は、およそ 2000 ケルビン
もう一つは「鉛直面の明るさ感を確保すること」です。鉛直面の明るさとは、建築の壁面や樹木のライトアップなどの「縦の面に感じる明るさ感」のことを指します。窓からの漏れ光も鉛直面の明るさと言えます。漏れ光が愛されているのは、間接照明がなかった時代には唯一の鉛直面の光であったからですね。これらのあかりは、団地の表情を豊かにするとともに安心感も高める効果があります。低い色温度と鉛直面の明るさをつくりだすことで、団地の照明環境がアップデートされていくのです。


温かみのある色温度


鉛直面の明るさ

 

実際に長町さんと奈良学園前・鶴舞団地Ⅱ期・Ⅲ期を歩いてみました。

 
~各エリアの照明計画~
今歩いているところは、Ⅱ期から繋がる道路ですね

長町:この道路(名称:白壁の大路)では、照明計画を行うにあたり、駐車スペースをネガティブにしたくないという考えがありました。駐車場の壁面などを利用し、間接照明の歩行空間を実現することで壁がデザインされているというポジティブなイメージを与えています。また街区内の幹線道路ですので、奈良市学園前・鶴舞を象徴する上質感も意識した照明計画を施しました。


Ⅱ期移管道路


Ⅲ期移管道路

 

植物の隙間から、照明が鉛直面を照らしていますね。

長町:この照明は、植物が育ち、完全に照明が見えなくなるとさらに綺麗になりますよ。


植物の隙間からの照明

 

鉛直面の光で、住棟が浮かび上がっているようです。

古都の風情が息づく奈良学園前・鶴舞 vol.3~風景を取り込む暮らし~ はこちら

長町:外壁に鉛直の光があると、そこに住んでいる住民にとって邪魔になると思われがちです。しかし住戸からは軒下は見えないので、光が邪魔になっていません。間接照明だけでも反射によって大きな明るさが得られますし、何よりも安心感がちがいます。夜外にいても怖くない明るさは大事ですが、直接発光する強い光ばかりだとかえって周辺が暗く感じてしまうのです。


外壁鉛直面の光

 

団地に隣接する大通りにも団地の明るさが続いていますね。

長町:大通りに面している道は、樹木のライトアップで鉛直面を作りたかったのです。大きな流れで緑がずっと見えていて、安心感を体験してもらえる道をイメージしました。よく、「落葉樹で樹木のライトアップを行うのですか」と言われますが、大切なことは葉ではなく「樹形」です。樹の形を魅せるのであれば、落葉樹でもライトアップを施します。葉っぱがなくても風情を楽しめますね。


幹線道路沿いの照明

 

遊具がある広場がまるでアートのようです。

長町:遊具がある場所は、「夜は人がいないので照明は不要」という声もありますが、それだと怖い場所になってしまいます。夜は見て楽しむオブジェだと思えば、安心感がありますよね。子どもが夜歩いていても危なくないですし。
ベンチの下部には照明を埋め込んでいます。ベンチが浮いたようになり広場が立体的になります。顔は幾分暗いので、影絵や団地のあかりを眺めながらの語らいにも向きますよ。


広場


花びらの影絵

 

長町:Ⅲ期は建築もⅡ期からつながっていていろいろな意図を理解して下さっているうえでスタートしているので、とてもまとまっていると思います。美団地のような媒体で共有していきたいですね。

 

~照明デザインの可能性~
UR団地での照明デザインの可能性について

長町:樹木がもともと育っていることがUR団地の最大の特徴です。建替えを行う時でも、既に豊かな緑が構成されており、その点で照明デザインの可能性を感じています。これまで実験的なことをいくつもされてきていますが、照明のジャンルでももっと挑戦してほしいですね。住まうことに関する探究・哲学を見つけていければ、より魅力的になると思います。
照明は主役ではありません。ランドスケープや建築を際立たせ、風景を豊かにするとともに、住まう方々の楽しさや夕方のアクティビティを生み出す仕事を担います。
夜時間を大切にすることは、まちのプライドになり、自信の持てる家に住むということに繋がります。夜時間が豊かになることで住民の方が「帰ってきてよかったな」と思ってくれたら、幸せですね。


夕陽丘市街地住宅(長町氏が代表取締役を務める株式会社 LEM 空間工房が照明計画を担当)

 

今後の活動について

長町:最近、地方都市の活力を高める仕事が増えています。各地の独自性を活かした「まちそのものの大改造」のようなことから「住民の皆さんと力を合わせて創り出す特別なあかり」などです。人々の日常の本当の幸せを創る仕事がしたいですね。
一般的に照明デザイナーは、オフィスビルや大型の商業施設・ホテルなどの照明デザインを行うことが多いと思いますが、私はまちの問題を解決したり、明かりでまちを元気にしたりしたいですね。
観光のまちでも、観光客を増やすためだけでなく住んでいる人も幸せになる、そういうことが全国で必要とされています。私が手掛けた「水木ロード」では、特別な照明デザインをすることによって観光客が激増したのですが、夜景でにぎわいが出てくると、住民の皆さんも夜景を大切にしてくれるようになります。2018年のクリスマスには、商店街の多くの方があかりづくりのワークショップに参加し、手作りでつくる妖怪オブジェでクリスマスのストリートが華やぎました。
例えば、団地の「屋外空間の使いこなし」をURの方が実施するとなると大ごとですが、住民が主体となって何かを創り出したり、季節のイベントをやるならば、屋外空間がずっと有効に使えますし、団地の価値が一層高まっていきますよね。今後は世界中が、参加型で環境を使いこなすようになると思うので、UR団地でもそういった試みが広がればよいと思います。

OURS. 奈良学園前・鶴舞団地記事はこちら

Photo : Ai Hirano etc

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