Interview

いろいろな角度でまち・団地を”語る”専門家のお話。新たな一面が発見できるはず。

専門家が語る まち・団地への想い

濱惠介さん(建築設計) 前編

ー団地設計の本質を探るー

建設後30年経過した奈良青山団地において、当時この団地の設計を担当されていた濱さんにお話を伺いました。
(奈良青山団地:1989年に奈良市建築文化賞 町並み賞を受賞) 

濱惠介さん(はま・けいすけ)

エコ住宅研究家、UR都市機構 都市デザインアドバイザー。1968年東京大学工学部都市工学科卒業。日本住宅公団及び住宅・都市整備公団で、住宅団地・都市住宅の計画・設計等に携る。その間、フランス国立ストラスブール建築・都市計画学校に留学、インドネシア共和国公共事業省の居住部門で技術協力に従事。関西支社建築課長、本社建築部設計課長、九州支社住宅・再開発部長等を歴任。1998~2014年大阪ガス(株)エネルギー・文化研究所でエコロジカルな住宅と生活に関する研究・発信に従事。その間、大阪大学大学院招聘教授を兼任。



時代背景

濱:奈良青山団地は設計したのが昭和61年ですから、もう30年と少し経過しています。1986年に設計し入居が1988年。当時は住宅の質だけでなく量も求められており、公団全体で年間2万戸くらいは発注していました。関西支社でもその内2割くらいの4~5千戸を発注していました。一方で民間との競争も激しく、居住性の確保や魅力付加ということも大きな設計のテーマでした。奈良青山団地が設計された時期は量から質への転換から10年近くが経過し、公団の中でも技術的な経験や知恵もついてきて、それまでに実践された設計の内容が熟成してきた時期です。
 具体的に青山の話に入る前の話ですけども、郊外団地というのは全体的にエレベーターが設置されていない5階以下の中層住宅が主流で、階段室の両側に住宅がある階段室型の住宅形式が当時としては市場競争力が一番高くて一般的でした。しかし、問題点もいろいろありました。まず、エレベーターがなく階段だけというのが高齢者にはきついということ。ただ何となく4階建てまでなら階段でいいのではないか、という認識が当時はありました。今の住宅は車椅子でも暮らせるバリアフリーが一般的ですが、当時は車椅子の居住者は数パーセント程度と想定し、1階の一部の住宅で対応すればよいとされていました。住戸内の段差解消についても、すべて対応しようとすると工事費がそれだけかかるので、それほど無理はしていなかったです。


左)沿道景観 右)住棟1階エントランス

奈良の風土と周辺に配慮した設計の試み
濱:奈良青山の話に入っていきますと、設計に際してここでは2つの大きな条件がありました。一つ目はこの立地について。空気がきれいで環境も良い立地ですが、近鉄奈良駅からのバス圏であり、家賃が比較的安めになることから、事業としては厳しい。そこで居住性を高めて、質の良い住宅を提供しようということが第一の条件でした。
 もう一つはこの敷地は奈良県の風致地区内にあったため、形態、高さ、色彩など景観上の様々な指導があり、県といろいろ協議をしながら設計しました。風致地区にあることはデザイン上よいものをつくるという意味では決して悪いことではないのですが、4階建て以下という高さの規定が戸数確保という公団のポリシーと少し違っていました。用地費もそこそこ高いわけですし、戸数を詰めて5階建てまで建設を認めてもらおうとしたのです。いろいろ協議をする中で遠目には4階建てに見える5階建てのデザインを考えました。
 5階建てにも勾配屋根を付けたかったのですが、15メートルの絶対高さ制限というものがあり、最上部は水平の屋根です。しかし5階にしている部分の壁側面にも屋根材を回し、一見屋根裏部屋風にして、4階建てに見えるようなデザインとなっています。
 また、西側の戸建住宅地の宅地盤高は公団敷地より低くなっており、そこに建つ戸建住宅の2階建てからいきなり4階の中層住宅に高さが変化するのはよくないだろうと、そちら側には3階建てを配置しました。4階建てに見える5階建てをメインに一部3階も混ぜていくということで、結果的に3、4、5階のスカイラインを持つ団地になりました。これは結果的に全てを4階建てにするよりも景観的に却って良かったと思っています。
  

住棟アクソメ図(北西方向から)

 

左)屋根デザイン 右)
周囲の山並みに溶け込むように設計された屋根並み

濱:屋根の形状は戸建住宅の屋根のように勾配のまま先端まで伸ばして樋を付ける方法もありますが、木葉で樋が詰まってメンテナンスをする際の安全性に配慮して、庇の部分は普通の陸屋根のように平場を確保し、作業通路を兼ねた形としています。


勾配屋根の庇先端に設けられたメンテナンス用の平場

屋根先端の形状の話はバルコニーの先端が下がって居住性が悪くなることへの対策の意味もありますよね。

濱:はい、まさにその通りです。全体を勾配屋根とする場合、軒高を20~30センチくらい上げないと庇の先が下がってきて採光や日当たりが悪くなります。外観を良くするために、居住性を下げるということはあってはいけないと私は考えています。居住性をむしろ良くする方向で外観もよくしなければいけない。景観デザインと住宅性能の両者のせめぎあいを考えるところが設計の一番の知恵の出しどころです。
 5階部分の住宅ですが、屋上テラスを設けたり、勾配屋根の下を大きな物置に利用するなどの魅力を付加して、エレベーターのない5階という条件の悪さをカバーしようとしています。


濱:それから建物が結構複雑な形態のため、建設費を抑えるために、大部分の住棟を民間開発工業化住宅としていわゆる「性能発注」をしました。PC工法(※1)の住棟は在来工法に比べて1割前後安くできたと記憶します。PC工法でもこのくらいは出来るということの試みでした。

※1. PC工法:躯体の壁や床板を工場で蒸気養生して製作し、現場にて組み建てる工業化された工法。


PC工法でつくられた住棟 

附属棟も景観に配慮

濱:それから風致地区ということもあり、集会所は奈良の伝統的な建築様式である大和棟風のデザインで設計しています。本当の大和棟(※2)は必ず東西軸なんですが、ここでは景観上、平行配置の建物の真ん中に南北方向に縦軸を持ってくる形で計画しました。これは私のスケッチで、ほぼこのような形で設計されました。

※2.大和棟:奈良県の民家等で見られる建築様式で、切妻の草葺と屋根瓦が組み合わされており、洗練された切妻の白い漆喰壁と屋根の対称性が美しいのが特徴。


集会所・管理サービス事務所棟と清掃員室棟

濱:それからあまり目立たない場所にありますが、受水槽・ポンプ室も景観に配慮してデザインされています。土蔵のようなイメージでしょうか。


勾配屋根の付いた受水槽・ポンプ室 

配置設計での工夫
南側にはボックス住棟を配置されていますね。

濱:南側のゾーンは、私は方位を変えた平行配置で収まるだろうと考えていましたが、ボックス住棟を敷地南側に5棟配置して変化を付けたのは遠藤剛生建築設計事務所のアイデアです。


左)配置計画 敷地南側にボックス住棟が5棟配置 右)3階建てのボックス住棟

壁式構造なのである程度の壁量の感覚はお持ちで、フリーハンドでも設計の検討ができたのでしょうか。

濱:常識的に耐力壁を配置しながらスケッチすれば、うまくおさまります。3階建てとか4階建てなどの住棟を建てる場合は壁式構造(※3)をもう一度活用すべきだと思います。間取りを作って壁で囲んでやればその通りに建物ができるのです。ラーメン構造(※4)のように柱4本の四角の中に住宅を収めなくても、外観が凸凹になってもできてしまうのです。却ってそれがデザイン的には綺麗に見えたりします。

※3. 壁式構造:壁や床版などの平面的な構造体で建物を支える構造。中低層の共同住宅などに採用されることが多い。
※4. ラーメン構造:剛接合された柱や梁などの軸組によって建物を支える構造。

濱:あと配置計画上の工夫点として、自転車置き場の大部分をすべて屋外に出さずに高低差を利用して西端の一番下がったスパンを一部半地下のピロティにしてそこに計画しています。これは厳しい土地利用の中で住宅まわりに緑を少しでも増やすなどの一つの知恵です。現地を見て思い出しましたが、半地下の駐輪場からエントランスまで遠回りしなくて済むようにちゃんと動線も確保していますね。
 

左)地盤傾斜部に設けられた駐輪場 右)半地下の駐輪場から1階の住棟エントランスへとつながる動線

 
屋外空間について
集会所まわりの縦の軸線は中心性がしっかりできていますね。

濱:今思えば当時、駐車場を戸数の8割確保するという条件は、仕方ないこととして妥協しましたが、屋外環境としては駐車場が多い殺風景な環境になってしまったことは反省点です。この団地の屋外空間としては集会所へ至る縦の軸線と両側のプレイロットくらいしかまとまった空間がなく、残りはほとんどが駐車場です。
ただ、駐車場の条件は時代によってすっかり変わると思います。車を今ほど多く持たない時代も来るかもしれないですし、そうしたら駐車場を一部にして庭園化すればよいと思います。


プレイロット空間

駐車場の間にうまく緑が配置される形になっていますね。 

濱:将来、木が大きく育てば横からから見たときに並木のようになってよくなるのではないかと想像しました。


住棟間に設けられた駐車場と緑地

ランドスケープは公団が主導でデザインされたのですか。


屋外に配置されたガウディ調の造形物

濱:私自身は和風のイメージを当初持っていました。私の意図ではありませんが、一部でガウディー調のデザイン(※5)が導入されています。白い壁に黒っぽい屋根といった和風のイメージと全然違うモチーフも持ち込みたかったのではないでしょうか?

※5.ガウディー調のデザイン:18世紀末~19世紀初頭にスペイン・バルセロナで活躍した建築家アントニ・ガウディーによる曲線と細部の装飾を多用した生物的なデザイン。


住棟エントランス前のフットパス

時間が経過して樹木にも30年分の成長が見られます。松の木などもおそらく当時植えられたものでしょうね。松のほか笹や竹、ススキなどもみられます。

濱:松というのは和風の象徴的な木ですね。もちろん既存の樹木は全くなかったので、植えられたものです。松の木を団地内に植えているのは公団では珍しいですね。


  
後編に続く。

Photo:Ai Hirano etc

所在地:奈良市青山3丁目1番地 

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